日本のデジカメは盤石か?


日本社会の現状を「失われた○○年」(以前は○○年とは10年のことでしたが、最近では20年となっています)とあらわす言い方をあちこちで目にします。その一番の原因は、国内の内需を育成できていない点にあることは、日本の産業構造をみても明らかです。しかし、同時に見ていかなければいけないのは、グローバル化した世界経済の中で、わが国がどういう価値を国際社会に対して提供していくのか、という点です。

かつて世界市場を席巻した家電メーカーに過日の面影はなく、おなじことはレベルの差こそあれ、あらゆる分野で目にします。これから急速に人口減(すでに現役世代である生産年齢人口は年100万人のペースで減少しています)が進んでいく中、少なくとも現在の生活水準を維持するためにも、国際社会に提供していく「付加価値」をどのように確立していくのかを、真剣に考えていかなければならないと思います。

デジカメ分野は、わが国が圧倒的な市場シェアを握っている数少ない分野の一つです。市場全体が成長している中において、コンパクトカメラで約8割、レンズ交換式カメラでは9割を大きく超えるシェアを確保しています。とくに最近の傾向は、単価と利益率の高いレンズ交換式カメラの市場拡大が著しく、キヤノンとニコンを両巨頭とするわが国のデジカメ産業は圧倒的な強さを示しています。

しかし、こうした状況は、決して盤石ではないと、私は考えます。

フィルムカメラからデジタルコンパクトカメラ、レンズ交換式デジタルカメラの流れの中で、わが国のメーカーは主導的な地位を維持し高めることに成功しました。その原因は様々ですが、デジタルカメラにおいても光学技術の蓄積が重要であったことと、一眼レフタイプのカメラにおいてはメカ部分を中心にフィルム一眼レフの知的財産権やノウハウがそのまま有効であったこと、が大きかったと思います。これらの技術的な優位性が、デジタル時代においてもブランド力を保つことに貢献したと言えます。

ところが、ミラーレスカメラの登場により、こうした寡占状況が流動化しようとしています。すでにサムソンは精力的にミラーレスカメラ分野に製品投入をはじめており、海外での展示会では徐々に存在感を高めています。

同じレンズ交換式カメラであっても、デジタル一眼レフとミラーレスカメラとでは、設計・製造上に大きな違いがあります。デジタル一眼レフでは、高精度でシャッター幕と同期するミラーや、光学技術を集めたファインダーが不可欠ですが、これらの設計・製造には技術的にも大きな障壁があり、事実上他社の参入を阻んできました。ところが、ミラーレスカメラでは、こうしたメカ技術や光学技術の占める割合が大幅に低下しています。また、部品の精密な組み合わせと調整が必要な最終段階も、電子部品のアセンブリーに置き換えることが可能になりつつあります。言い換えれば、要素部品を購入して組み合わせれば、以前とは比較にならないほど容易にレンズ交換式カメラ市場への参入が可能であり、参入障壁が格段に低くなっているのです。

同じことを、私たちはテレビで体験しました。また、徐々にガソリンエンジンからモーターに置き換わろうとしている自動車産業も、デジカメ分野と同じ波にさらされています。

とはいえ、いまだ光学技術の果たす役割は小さくなく、築いてきたブランド力も一朝一夕に獲得できるものではありません。これからの数年間で、レンズ交換式カメラにおけるミラーレスカメラのシェアは逆転し、いずれその差は圧倒的になっていくものと思われます。この転換期に、どれだけ存在感を維持できるのかに、今後のデジカメ市場における地位はかかっていると言っても過言ではないかもしれません。

私たちが「monoxデジカメ比較レビュー」を立ち上げた問題意識の一つに、この点があります。供給サイドではなくユーザーサイドから、できるだけ適切な評価を加えていくことが、わが国のデジカメ産業が「流動期」を生き残っていく上でプラスになると考えたからです。私たちのようなサイトが重層的に重なっていくことができれば、ユーザーにとってもより適切な製品選択が可能となり、そのことがユーザーニーズにあった製品展開につながっていくのだと思います。

今回はブログの1記事目ということで、ちょっと大上段にかぶった内容になってしまいました。これからは肩の凝らない記事もたくさん載せていきますので、よろしくお願いいたします。