爆発的に急成長したデジカメ市場の今後 20世紀末から急速に普及し始めたデジタルカメラは、今や2兆円産業に成長しました。世界全体で2兆円、国内では2000億円強という市場規模は、他の情報機器や家電製品と比べ決して大きくはありません。しかし、日本企業が世界市場の圧倒的シェアを確保しているという点では、今や稀有な市場と言えるかもしれません。
ポイント1:デジカメになってカメラ市場は爆発的に拡大日本のカメラ産業は、1950年代から60年代にかけて急速に市場シェアを獲得しました。とくにレンジファインダー方式から一眼レフ方式への世代交代を積極的に推し進めることで、世界市場の中で主導的な地位を獲得しました。フィルム(銀塩)カメラからデジタルカメラへの移行期にも、日本のカメラ産業は主導的な地位を確保したまま、波を乗り切ることに成功しました。注意する必要があるのは、単に波を乗り切っただけでなく、市場規模そのものがフィルムカメラ時代とは比較にならないほど大きく拡大したという点です。その意味ではフィルムカメラからデジタルカメラへと移行したというよりは、デジタルカメラという新しい市場を創設した、という方が正しいように思います。 まず最初に、カメラ出荷台数の推移を見ますと、フィルムカメラの出荷台数(下図で青い棒グラフ)はゆるやかに拡大していることがわかります。ニコンFが登場した1959年の出荷台数約175万台が、フィルムカメラ台数でピークとなった1997年の3,667万台へと、約40年かけて出荷台数を3,500万台増やしたことになります。 これに対し、デジタルカメラは1999年の509万台が2008年には11,976万台へと、わずか10年間で1億1千万台以上も出荷台数を増やしています。増加率を単純に計算すると、フィルムカメラ時代は年90万台のペースで増えていたのが、デジタルカメラでは年350万台のペースへと4倍に拡大しています。 ![]() ![]() このことは、金額ベースで見るとさらにはっきりします。1959年の166億円が1981年に3,720億円となり、その後は20年近く横ばい状態でした。デジタルカメラは1999年に2,279億円となり10年後の2008年には2兆1,640億円と10倍に成長しています。文字通り爆発的な市場拡大と言えます。
![]() 同時にレンズの売り上げも急増しています。1959年に10万本10億円がフィルム時代ピークの1998年に647万本934億円に成長したのに対し、2012年では3,037万本4,788億円となっています。
ポイント2:コンパクトタイプからレンズ交換式タイプへデジカメ市場を見るもう一つのポイントは、レンズ固定式からレンズ交換式へとトレンドが変わってきているという点です。台数ベースで見ると、2008年まではレンズ固定式、レンズ交換式(デジタル一眼レフやミラーレス)ともに右肩上がりで出荷台数が増えています。2009年はリーマンショックによる影響と思われますが、レンズ固定式カメラは2010年に少々持ち直したものの、急速に出荷台数を減らしています。これに対し、レンズ交換式カメラは順調に数を増やしていることがわかります。 ![]() ![]() このことは、やはり金額ベースで見るとさらに明瞭になります。レンズ固定式カメラは2008年にピークを迎えたのち、わずか4年後の2012年には半減以上の減少となっています。これに対しレンズ交換式カメラでは、2009年に景気動向を受けたものの、やはり右肩上がりで成長しています。レンズ交換式カメラでは、カメラ本体とともにレンズも販売されるため、さらに差は広がります。
すでに金額ベースでは、ボディ本体だけを比較しても逆転しており、この差は今後さらに拡大していくものと思われます。 ![]() こうした傾向は、いうまでもなくスマートフォンの急成長と関係しています。レンズ固定式カメラで一定の需要があった「コンパクトさが最大の特長」というジャンルは、スマートフォンの普及で一掃されつつあります。
ポイント3:カメラ単価は急低下から下げ止まりへ?スマートフォンによってデジカメ市場に影響が出ていますが、必ずしも悪影響というわけではありません。コンパクトタイプ、レンズ交換タイプともカメラ単価は急低下していますが、スマートフォンによる影響が出てから単価低下のペースが落ちています。レンズ交換式カメラでは、わずかながら単価の上昇も見られます。これは、デジカメが高機能モデルへとシフトしていることを示しています。各社とも高級コンパクトや多機能タイプなど、カメラとしての魅力を強化したモデルに力を入れており、私たちユーザーにとっては魅力的なカメラが増えることを意味します。 ![]() ![]() 以上のトレンドを整理すると、デジカメ市場は単にフィルム市場をデジタル化したものではなく、イノベーションともいうべき進化・成長を遂げていること、そしてレンズ交換式や高機能タイプなどの高付加価値モデルへとシフトしようとしていること、といった傾向が見て取れます。
(※一部グラフにおいて凡例の記載が誤っていました。ご指摘くださった方に感謝申し上げます。) |