フィルム時代まで縮小したデジカメ市場の今後 2000年頃から急速に膨張したデジカメ市場は、2007年に2兆円を超え、翌2008年にはピーク値の2兆1,640億円となりました。しかし、その後は成長と同じスピードで市場規模が縮小し、ピークの12年後となる2020年は4,201億円と、1/5以下にまで激減しています。
ポイント1:デジカメ市場はフィルム時代の規模に縮小日本のカメラ産業は、1950年代から60年代にかけて急速に市場シェアを獲得し、1980年代以降は概ね4千億円前後の市場規模で推移していました。その後、2000年前後から急速に立ち上がったデジタルカメラは、フィルムカメラに置き換わるだけでなく、カメラ市場そのものを大きく成長させました。フィルムからデジタルに移行する中で、台数ベースで約3倍、金額ベースでは5倍以上に市場規模が拡大しています。 デジカメ市場がピークを迎えた2008年は、iPhone3Gが発売となった年でもあります。iPhoneとしては2代目で、搭載しているカメラも有効200万画素のイメージセンサーにパンフォーカスレンズと、当時のトイカメラとしても正直見劣りする性能でしたが、結果的には、この年をピークにデジカメ市場は急速に縮小していくことになります。 カメラ市場を出荷額で見ると、1959年の166億円が1981年に3,720億円となり、その後は20年近く横ばい状態でした。デジタルカメラは1999年に2,279億円となり10年後の2008年には2兆1,640億円と10倍に成長したものの、12年後の2020年には4,201億円と1980年代と同等レベルにまで縮小しています。 こうした傾向は、出荷台数ベースでの推移を見るとさらにはっきりします。ピーク値となった2010年の出荷台数1億2,146万台が、10年後の2020年には889万台と、単純計算すれば毎年1,100万台以上ものペースで出荷台数が減り続けたことになります。ちなみに、フィルムカメラのピーク値とくらべても1/5まで縮小しており、数量的には1970年代の水準です。文字通り急激な市場縮小であったと言えます。
ポイント2:レンズ一体型からレンズ交換式へ。一眼レフからミラーレスへ。デジカメ市場を見る2番目のポイントは、レンズ固定式からレンズ交換式へ、一眼レフからミラーレスへとトレンドが変わってきているという点です。出荷額ベースで見ると、ピークとなった2008年はレンズ固定式カメラの1兆6,387億円に対し、デジタル一眼レフなどのレンズ交換式カメラは5,254億円と、カメラの売り上げに占める割合は1/4程度に留まっています。しかし、その後はレンズ交換式カメラの出荷金額は概ね横ばいで推移しているのに対し、レンズ固定式は激減しています。上記で見たデジカメ市場の収縮の一番の要因は、レンズ固定式カメラの売り上げが急減したためで、これは明らかに「スマートフォンの直撃」を受けたためと考えられます。 出荷台数ベースでみても傾向は同じで、2018年に両者の販売数が逆転し、その後、差はさらに拡大しつつあります。 レンズ交換式カメラの販売内訳をみると、一眼レフからミラーレスへの移行が着実に進んでいます。
CIPAがミラーレスカメラの数値を分離して発表しはじめた2012年、一眼レフはミラーレスの5倍以上の売上となっていました。その後、一眼レフの売上が減った分を補うかのようにミラーレスが増え、2019年には販売金額が逆転しています。すでにリコーのペンタックスブランド以外はミラーレスカメラに軸足を移していますので、この傾向は今後さらに強まるものと思われます。
ポイント3:カメラ単価は上昇。持続可能な収益構造へ。もう1つの重要なポイントが、カメラ販売単価の上昇です。下記のグラフは、カメラ種別ごとの出荷台数と単価の推移を示したものです。販売数が急減しているのに対し、販売単価は横ばいから上昇傾向となっています。 とくにミラーレスカメラの販売単価の上昇は著しく、2020年は2012年の3倍程度まで上がっています。他方で、一眼レフタイプの単価は横ばいであることを考えると、高機能な上級機種もミラーレスカメラへと移行していることを示しています。 注目すべきなのは、レンズ固定式カメラは販売数は激減しているものの、単価はやはり上昇している点です。高級コンパクトや高倍率ズーム機など、スマートフォンと直接競合しないところについては、デジタルカメラのニーズが引き続き高いことが統計データからも示されています。 販売単価の上昇傾向は、交換レンズの市場ではより明確に示されています。
交換レンズについても、2012年をピークに販売本数が急減していますが、それに反比例するように販売単価が上昇しています。このことは、キットレンズを同梱するようなエントリー向けのレンズ交換式カメラの販売数が絞られるとともに、単価の高い高性能レンズに軸足が移されつつあることを示しています。 市場のニーズも、「撒き餌」とも揶揄されることもあったエントリー向けカメラから、中上級者やプロ向けの機種へと変わってきており、メーカー側もそれに対応していることの結果であると言えます。 急速に立ち上がり、駆け足で収れんしたデジタルカメラ市場ですが、このことはデジタルカメラが登場した以前に社会が戻ったことを意味しません。
むしろ、デジタルカメラによって大きく広がった「写真文化」が、スマートフォンの標準装備としてカメラ機能を必要とし、そのことがさらに「写真文化」を大きく飛躍させつつあるというのが正しい状況認識だと思います。 言い換えれば、スマートフォンの登場により、誰もが日常的に写真を撮り楽しむ世界に変わったことを前提に、デジタルカメラの存在意義をどのように示し、写真・映像文化をさらに今一歩発展させていくのかが、問われています。 |